「上司の指示通りに作業したはずなのに、『いや、そうじゃなくて思ってたのと違う』と突き返される…」
「丁寧に報告したつもりでも、『だから何?要はどういうこと?』と問われ、言葉に詰まってしまう…」
「担当業務のKPIを大幅に達成した!なのに、なぜか全く評価されない…」
こんな経験に、胸が締め付けられるような思いをしたことはないだろうか。
必死に努力している。誰よりも時間をかけている。それなのに、なぜか評価が伴わない。まるで、アクセルを踏み込んでいるのに前に進まない、空回りしているような感覚。その正体は、個人の能力や努力不足などでは決してない。
現代社会に蔓延する、ある「病」が原因なのかもしれない。
目次
情報の濁流の先にある「可視化依存社会」という名の落とし穴
現代は、まさに情報の濁流だ。デジタル化の進展により、毎日のように膨大なデータが吐き出され、SNSやニュースアプリからは玉石混交の情報がひっきりなしに流れ込んでくる。その結果、私たちは知らず知らずのうちに、目に見えるもの、数値化できるものばかりに気を取られてしまう。
それが「可視化依存社会」だ。
KPIや各種データといった目に見える情報に注意が奪われ、その裏側にある「なぜ?」という本質的な側面や、背景にあるストーリーが見えなくなっていく。
- 生産性向上の本質は、業務スピードを上げることではない。やらなくても良いことを見極め、やめてしまうことにある。
- 報告書作成の本質は、情報を網羅的に詰め込むことではない。相手が必要とする結論を伝え、次のアクションに繋げることだ。
- マネジメントの本質は、細かく指示を出すことではない。部下が自律して成果を出せる機会を与え、自主性を育むことにある。
表面的な数字やタスクに振り回され、その奥にある「本質」を見失っているからこそ、努力が空回りしてしまう。広告費をかけて資料請求者数(KPI)を達成しても、その人たちが購入に至らなければ、広告費をドブに捨てたのと同じ。これでは評価されるはずがないのだ。
この根深い問題を解決し、自身の努力を真の成果へと結びつけるための羅針盤となる一冊がある。それが、羽田康祐氏の著作『本質をつかむ』だ。
ロジカルシンキングの「次」に来るもの
「思考法」と聞くと、多くの人がロジカルシンキングを思い浮かべるだろう。もちろん、物事を体系立てて合理的な結論を導き出すロジカルシンキングは必須のスキルだ。
しかし、本書が提唱する「本質を見抜く力」は、それとは明確に一線を画す。
ロジカルシンキングは、与えられた情報が正確で完全であるという前提に成り立つ、いわば「地図を正確に読み解く技術」だ。しかし、情報が不完全であったり、そもそも向かうべき目的地(本質)が間違っていたりしたらどうだろうか。どんなに正確に地図を読んでも、遭難してしまうだけだ。
一方、「本質を見抜く力」は、複雑な現象の裏側にある根本的な意味や力学を見抜く、いわば「どの山に登るべきか、その山の天気はどう変わりそうかを見極める力」だ。
本書は、この「本質」が持つ5つの特性(根本性、必要性、シンプル性、不変性、全体規定性)を解き明かし、それを掴むための具体的な思考法を授けてくれる。それは、データや事実に基づく論理だけでなく、感情や文化的背景まで含めた「洞察の思考」なのである。
思考の解像度を爆上げする「7つの力」と「視点力」
では、どうすれば本質を見抜く力を手に入れられるのか。本書の核心は、そのための具体的な方法論を極めて体系的に示している点にある。
その中核をなすのが**「本質を見抜く7つの力」**だ。
- 本質的な「意味」を見抜く力:言葉の裏にある真の意図を読み解く。
- 本質的な「原因」を見抜く力:表面的な問題の根本原因を突き止める。
- 本質的な「目的」を見抜く力:手段の目的化を防ぎ、真のゴールを見定める。
- 本質的な「特性」を見抜く力:物事を成り立たせている性質や力学を見極める。
- 本質的な「価値」を見抜く力:流行に惑わされず、真の価値を理解する。
- 関係の本質を見抜く力:物事の因果関係や構造を解き明かす。
- 「対局」を見抜く力:長期的・全体的な視点で物事を捉える。
これらは独立したスキルでありながら、相互に補完し合う関係にある。
例えば、上司から「次回プレゼンでは説得力をもっと高めてほしい」と言われたとしよう。
この言葉の「意味」を考えず、ただ資料を分厚くするだけでは的外れかもしれない。その背景には、「上司が考える品質基準に達していない」という課題があるのか、それとも「今回のプレゼンが役員会にかかるため、より戦略的な視点が必要だ」という「目的」があるのか。それを探ることで、取るべきアクションは全く変わってくる。
さらに、本書のユニークな点は「視点力」の重要性を説いていることだ。
「売上を上げろ」と言われれば、誰もが「売上」という視点で物事を考える。しかし、もし「何かを考えろ」とだけ言われたら、思考はどこにも向かえない。つまり、「何について考えるか」という思考の起点を定める「視点」こそが、本質に迫るためのスタートラインなのだ。
同じ一杯のコーヒーでも、「飲むもの」という視点では100円の価値だが、「リラックスできる時間をもたらすもの」という視点では500円になり、「社交の場を演出するもの」という視点では1000円の価値にもなり得る。
この視点を自在に切り替える力があって初めて、「7つの力」は真価を発揮するのだ。
「思考の筋トレ」で、誰でも実践できる
ここまで読むと、「なんだか難しそうだ」と感じるかもしれない。しかし、この本の真に驚くべき点は、難解な理論を語るだけでなく、誰でも日常で実践できる「1週間トレーニング」という具体的なプログラムまで用意されていることだ。
月曜日から日曜日まで、それぞれの曜日に「7つの力」を鍛えるテーマが設定されている。
題材は、通勤中にスマホで読むニュース記事や、その日に職場で起こった出来事だ。
- 月曜日:本質的な「意味」を見抜くトレーニング
- ニュース記事の裏にある利害関係を想像してみる。
- 上司の何気ない発言の真意を「なぜ?」と掘り下げてみる。
- 火曜日:本質的な「原因」を見抜くトレーニング
- 企業の不祥事ニュースから、その根本原因を多角的に分析してみる。
- 職場の小さなトラブルの因果関係を図にしてみる。
このように、特別な時間を確保する必要はない。日々の隙間時間を「思考の筋トレ」に変えることで、少しずつ、しかし着実に本質を見抜く力は鍛えられていく。
3日で身につく小手先のテクニックは、3日で真似される。しかし、日々の習慣によって鍛えられた思考体力は、誰にも真似できない、一生モノの競争力となるだろう。
この本が、あなたの仕事の景色を変える
本書は、単なるビジネスハック本ではない。情報に振り回されるだけの受け身の姿勢から脱却し、物事の核心を自らの力で掴み取りにいくための、思考のOSをアップデートする一冊だ。
この本を手に取るべきなのは、こんな人だ。
- 日々の業務に追われ、目の前のことしか見えなくなりがちな人
- 上司や顧客とのコミュニケーションで、意図のズレを感じることが多い人
- 問題の根本原因を突き止め、持続可能な解決策を導き出したい人
- 情報過多の時代に、自分なりの確固たる判断軸を持ちたいすべてのビジネスパーソン
一方で、すぐに使える魔法のようなテクニックだけを求めている人には、少しじれったく感じるかもしれない。本書が提案するのは、日々の積み重ねを必要とする「思考の筋トレ」だからだ。
しかし、もしあなたが今の「空回り」状態から抜け出し、自分の努力を確かな成果に変えたいと本気で願うなら、これほど心強い相棒はいないだろう。
ページをめくるたび、これまでぼんやりと霞がかっていた日常の出来事やビジネスニュースの輪郭が、くっきりと鮮明になっていく感覚に驚くはずだ。そして、読み終える頃には、あなたの仕事を見る目は、これまでとは全く違うものになっているに違いない。
本書で紹介されている思考法に興味を持たれた方は、ぜひ手にとってみてください。


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